私が小児科医初期研修をしているときに、夜間当直の際に先輩医師に言われたのは「乳児の髄膜炎と乳児百日咳は怖いぞ。急変するからな。」でした。約20年前です。その後、ヒブと肺炎球菌ワクチンによって、乳児髄膜炎は世の中から激減しました。しかし、百日咳は最近報告が増えているのです。いったいどういうことでしょう。
百日咳は、百日咳菌の飛沫感染、接触感染により発症します。けいれん性の咳発作が特徴で特に生後6か月以下の乳児は呼吸不全にいたることもあります。国は、乳幼児を感染から守るために3種混合もしくは4種混合ワクチンを2歳までに4回接種することを義務付けてきました。そこで乳児の百日咳は激減しました。ワクチンってすごいですね。ただこの話には続きがあります。この10年ほど、思春期や成人の百日咳の感染者増加が問題になっています。これまでは、小さい子の病気と考えられていましたが、実は成人の咳の原因の一つとして百日咳が関与していることがわかってきました。もう少し詳しく調べていくと、ワクチンでつけたはずの免疫は効力が4-5歳で低下していること、10代で低下していることも判明しました。諸外国では、このようなデーターをもとに就学前と思春期にワクチンの追加接種を2回もしています。厚生労働省も、現在11-13歳で接種する二種混合ワクチンに代わり百日咳を追加した3種混合ワクチンに変更することを検討しているそうです。
この感染症の一番の問題点は、ワクチンをしていない3か月未満の乳児は重症化するということです。6か月以下の乳児への感染源としては、両親が55%、兄弟姉妹が16%だり家族内感染が7割を占めています。大人の百日咳は、咳が遷延するだけで、病院で診断されていないケースも多いことが予想されます。知らないうちに、赤ちゃんに感染をさせてしまうことも考えると、思春期や成人の百日咳対策は急務を要すると考えます。
では私たちはどうしたらよいでしょうか?最近、当院でも5歳の百日咳の症例を経験し、保健所に報告しました。百日咳は、決して稀ではない疾患と考えてください。就学前と小学校卒業前の三種混合ワクチンの接種を考えてあげてください。赤ちゃんがいる家庭、生まれる家庭はお父さんお母さんのワクチン接種もよいと思います。また、このワクチンは生後すぐの赤ちゃんへの免疫力維持のために、妊娠20週以降の妊婦に接種してよいことになっています。ワクチン先進国の米国では、妊娠のつど、このワクチン接種をすることが推奨されており、それによって二か月未満の百日咳感染のリスク回避をしているそうです。
不活化ワクチンの効果は持続しにくく、追加接種が必要なことを理解し行動してください。百日咳に対する三種混合ワクチンは予約取り寄せになります。詳しくは、スタッフに問い合わせください。